猫の書斎2

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高橋名人のゲーム35年史:FC世代必読のビジネス書だ

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高橋名人のゲーム35年史』

この本には裏切られました。もちろん、いい意味でです。本書裏面の説明文にはこう書いてあります。

 

テレビゲーム業界のレジェンドが書く、ファミコンから現代までのゲームの歴史と裏側。「ゲームは1日1時間」「16連射」など、かつてファミコンブーム時代に一世を風靡した高橋名人。35年以上ゲーム業界にかかわり、今も現役でゲームにかかわる高橋名人だからこそ書ける、テレビゲームの話と自身の当時の裏話を書いた一冊。


「「ゲームは1日1時間」「16連射」など、かつてファミコンブーム時代に一世を風靡した高橋名人」のあたりにピンと来てこの本を買いました。ぼくは、ファミコンブームのときは小学生低学年。まさにドンピシャの世代で、ぼくにとって高橋名人はテレビに出ているゲームの上手なお兄さん的存在。親からは「ファミコンは1日1時間」と高橋名人が言った言葉そのままのルールを適用され、高橋名人の所属するハドソンのシュウォッチを買ってファミコンができない時はそれで、連射の記録に挑戦してたっけな……。
そんな、懐かしい雰囲気にたまには浸ろうかな、と思ってこの本を読み始めましたが、その想定は完全に裏切られました。


本書はビジネス書に近いものでした。


スーパースター社員


ぼくにとって高橋名人は「ゲームの上手なお兄さん」だったわけですが、当然、ハドソンの社員だった以上、ただの「ゲームの上手なお兄さん」だけの存在であるはずはありません。

 
超モーレツ・スーパースター社員だったのです。


高橋名人は、ハドソン入社前にスーパーに勤めていたのですが、友達が受けるというハドソンの面接についていって、そのときスーパーで培った「らっしゃい、らっしゃい、らっしゃい」的な威勢のいい対応が気に入られ、なぜか呼ばれてもない面接で合格するという、マンガみたいスタートダッシュを切ってゲーム業界に飛び込みます。


そして入社してすぐに、八面六臂の活躍です。広報活動や販促物作成といった通常の宣伝業務だけでなく、「コロコロまんがまつり」というイベントでゲームコーナーの司会を受け持ち、それがきっかけで高橋名人が誕生、全国規模のゲーム大会を企画・実施して自社のソフトを宣伝しまくり、テレビに出てゲームを売りこみ、漫画のキャラにもなり、果ては映画化……と、普通のサラリーマンでは考えられない大立ち回りを演じます。


かってに「気さくな近所のお兄さん」的な存在だと思っていたけど、そりゃそうだよな~、テレビに出てあれだけ場を盛り上げられるんだもの。それもタレントとかでなく、いちゲーム会社の社員という立場でです。サラリーマンをやっている自分を振り返ると、とてもそんな大活躍、考えられない。


「おもしろそうだからやってみよー」というフットワークの軽さを持ちつつ、それでいてゲームにとって何が大切なのか、子供たちにゲームで何を提供したいのか、など仕事哲学的なものはきちんと押さえている。ファミコンブームの後も、ブログでの広報活動や、ニコ動など新メディアへの出演など、時代の動きにもきちんとついて行きつつも、「ゲームの面白さを伝える」という芯の部分はいつもブレない。


近所のお兄ちゃんと思っていた高橋名人は、ほとんど雲の上の存在だったんだとわかりました。ほんと、本書を読み終わった後では尊敬しかないです。ビジネスとは何か、仕事とは何か、を考えさせられる本でした。


軽いノリと、異常な継続力


最後に、本書からぼくの好きなエピソードを引用したいと思います。

 

『ズームイン!! 朝!』には、83年の1月から通っていました。
最初は、とある宣伝目的で言ったのがきっかけです。それはパソコン用のOS「Hu-BACIC Version2.0」が、1年以上遅れて発売されたからです。
この発売をいち早くユーザーさんに知らせたいと思ったんですけど、当時のハドソンは雑誌の記事がメインだったので、いち早く知らせる術がない。
「もう発売するんだから、明日にでも知らせたい。全国放送だし、場所も近いから『ズームイン!! 朝!』に行ってくれば?」と言われたんです(当時の『ズームイン!! 朝!』ではお客さんもカメラで映されていた)。……
そこで真冬なのに、ハドソンのロゴがついているTシャツを着ていってました。


注目したいのは「『ズームイン!! 朝!』に行ってくれば?」と言われたんです」ということろ。発想もすごいけど、本当に行っちゃうところがスゴイ。自分だったら、ジョーダンだと思って、適当にジョーダンをかぶせたりして、そのまま実行しないと思います。

 

コーナーが来るまで寒いから革ジャンを着ているのですが、そのコーナーが始まったら、冬なのにハチ助[ハドソンのロゴ]が描かれたうちわを持って(笑)、それでパッケージを持ってアピールしたんです。はたから見ると、ホント変なやつです。


こういう人いたなー、って懐かしくなりました。それで、カメラが向けられたら飛び跳ねたりしていましたね。


高橋名人はこの状態で、2年間毎日通ったんです。そして、そいうことをしているうちに名物キャラみたいになってメインアナウンサーだった徳光さんや番組スタッフとも顔見知りになり、ついには徳光さんに呼ばれて、正式に番組出演も果たします。
こんなこと、できる人っています??

 

  1. 全国放送のTVカメラに、変な素人と思われても映り込んで宣伝する。
  2. それを(しかも朝早い番組で)2年間、毎日続ける。
  3. (かってに)名物キャラになる。
  4. 有名人や番組スタッフと顔見知りになる。
  5. 番組に出演する。


ぼくはというと、①も難しいけれど、何かのはずみやノリで①だけはひょっとしたらやるかもしれない(自分の性格からするとこれも相当なハードル)。でも②は絶対やらない自信がある。途中で「コレ意味あるのかな?」とか「毎日はシンドイな」とか「恥ずかしいな」とか考えちゃう。想像だけれど、高橋名人はそういうところじゃなところに目が向いていた。「早くユーザーさんに知らせたい」とか「自社の製品を知ってほしい」とか、そういう純粋な心で動いていたんじゃないかと思うのです。自分がどう思われようとか、めんどくさいなあとか、二の次。


そういう活動とそれを下支えする精神があの高橋名人ブームを作ったんだなあと、30年以上たってナットクさせられた本でした。